2017年 09月 06日
おみやげ処より(本館ブログ9月号)
清水園では蕎麦の会があるんですね。おいしそうです。涼しくなってくるとお腹が減りますね。
さて前回の「阿賀野川」についてから随分間が開いてしまい、秋らしさがちらほら感じられる季節となりました。秋といえば読書。奇しくも今日は北方文化博物館のおみやげ処より本のご紹介です。
北方文化博物館のおみやげ処では、地酒をはじめ新潟ならではの食品や工芸品を取り扱っています。家族や友人へ旅のおみやげを選んでいただけるのはもちろんのこと、県内・市内といったお近くからご来館下さった方が、自分のためにお気に入りを選んでお買い求めいただけるのもうれしいことです。今日はそんなおみやげ処からのお話ですが、一般的なお勧め紹介からは少し離れてしまいますことを予めご了承下さい。少し長くなりますが最後までお付き合いいただければ幸いです。
*************************************************************
先日来館した知人が「これ面白そう」と手に取って購入していった本があります。Bricole(ブリコール)※企画・発行の『MADO+BOOKS 目門(まど)ブックス001 うつろうもの のこるもの』と題された本です。いぶし銀のように黒光りするモノクロ写真の表紙には、古く大きな茅葺屋根を背景に、手書き原稿のようにペン字で書かれた「うつろうもの のこるもの」の題字。新刊なのに古書を手に取ったような質感があります。開くと大小織り込まれたモノクロ写真の数々。川や舟や畑や家屋とそこで生活しているであろう人たちの日常の姿が飛び込んできます。(これはいったいいつのどこの写真だろう?)そんな疑問が湧いてきます。
本の内容は主に二つの柱で構成されています。ひとつはこの本の企画者であるブリコールの桾沢厚子さんが2014年に行った写真家・郷土研究家である斉藤文夫さんへのインタビュー原稿です。斉藤さんは後に師匠となる石山与五栄門(元巻郷土資料館長)さんと出会い、民俗学的な視点で撮影する地域の人々の暮らしや歴史に深く触れ、それらをよく見極めて撮ることの意義や面白さを教わります。本誌にも掲載のある写真は、1974年に廃村となった角海浜(西蒲区)を写した『角海浜物語―消えた村の記憶』(和納の窓叢書)の写真です。これらの写真には、地理的または社会的要因によって廃村へと向かいながら大らかに暮らしを営む老人たちを、敬い見つめる斉藤さんの温かなまなざしが色濃く表れています。新潟市西蒲区(旧巻町)出身の斉藤さんは、現在、西蒲区福井の旧庄屋佐藤家の保存のため”囲炉裏の火焚きじいさん”として、ご自身と出会った人たちそれぞれの生き方を次の世代へ伝える存在です。
もうひとつは、映画『阿賀に生きる』(1992年、監督 佐藤真)の制作スタッフと、斉藤さん、桾沢さんらを交えた”いろり座談会”「角海と阿賀に生きた人々」なるトークイベント(2014年開催)の書き起こし原稿です。知る人も多い映画『阿賀に生きる』は、新潟水俣病という公害の被害者である人々の暮らしを撮影したドキュメンタリーですが、そこに映し出されるのは、公害の運び手となってしまった阿賀野川に寄り添い、新潟水俣病を懐に抱きながら鮮やかに軽やかに生き切る老人たちの姿です。『角海浜物語』と『阿賀に生きる』に現れる人々についてやりとりされるトークからは、撮影を通して向き合った老人たちから引き継いだ生き方が、制作スタッフ一人ひとりの中にそれぞれ反映されているように思いました。
この本に対して得られる好感は、内容の手ごたえからだけではありません。ただでさえ文字数の多くなる話し言葉の書き起こし原稿を少しでも読みやすいようにと工夫されたであろう段組み。思わず苦笑してしまうほど多い丁寧な注の数々。そこには編者の「伝えたい」心の温度が感じられます。私は編者の一人、桾沢厚子さんのあとがきにある言葉が印象に残っています。・・・東京から新潟へ移ったものの心の置き場は東京にあると思っていた自分にとって、目に飛び込んできた『角海浜物語』や『阿賀に生きる』は”「新しかった」のだ。”という一言。そしてインタビューや座談会を行ったのは衝動的な行動だったと述べています。・・・
私たちが今後どのような社会を作り上げていこうか(あるいは作り上げていくべきか)考えたとき、先を生きた人たちの生き様・価値観・あるいは失敗を知り、一体自分がそのどこに心を動かされているのかを探ってみるのもよいと思います。民俗学とは過去を知るためだけのものではなく、むしろこれからどう生きるかのヒントを発掘し、未来へ伝えるための研究ではないかと思います。桾沢さんの感じた、かつての角海や阿賀の中の「新しさ」が形となったこの本には、民俗学の新しい担い手の出現を手助けする役目があるように思います。深く深く過去をさかのぼるほど、ふいに見えてくる進むべき道。それは古いけれども新しくはっきりと見据えることができる道です。それはおそらく「ただ生きるために、どう生きるか」という素朴な疑問への答えではないかと思っています。もしそんな問いを持っている人がいたらぜひこの本を手に取ってもらえたらと思います。きっと先を生きた人たちの積み重ねてきた年月に支えられ、迷うことなく向かう先が見えてくることでしょう。
おみやげ処で一冊、一冊とゆっくり減っていく本の売り棚を眺めるたびに、読んだ感想を携えてまたご来館下さるお客様とお会いできたらいいと思っています。
このたびもつたない文章を最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
※Bricole(桾沢和典・桾沢厚子)さんは、地域に残るあたりまえの生活・文化・歴史をあらためて理解し、新しい価値として組みなおすことで、その継承と新たなコミュニティづくりに寄与することを目指し、ワークショップやシンポジウムといった形を中心に積極的に活動されています。
(本館 ブログ担当:こでまり)
by hoppo_bunka | 2017-09-06 19:17 | 本館・その他 | Comments(0)