開園してまもなく、そのお客様はいらっしゃいました。寒が戻り時折激しく雨やあられが降る、大変寒いその日に。
「素晴らしいですね。」と感嘆されながらお庭を眺め、苔を覗き込み、2時間近くいらっしゃったでしょうか。門の脇に貼ってある「にいがた庭園街道」のポスターをご覧になって、「これが、あんまり素晴らしいものですから、わけてもらえないかと今問い合わせてみたんです。でも、もうなかった、残念。」と笑っておっしゃいました。お庭が大好きでいらっしゃるのでしょう。石泉荘や苔香荘も見たかったとおっしゃり、「毎日このお庭が見られて本当に幸せですね。」とおっしゃって帰っていかれました。
寒い時期はお客様の数はぐんと減ってしまいさみしい思いをしますが、来園される方は、本当にお庭がお好きな方が多いので、お庭をほめ、楽しんでくださいます。そのお言葉がとってもうれしくて、杜甫が『春望』で家族からの手紙を「家書万金に抵る」と表現したけれど、お客様のお言葉も、その寒い日を一日中ずっと温め続けてくださいました。いつの世も言葉の力は偉大だと思います。
先日新潟日報の投書「窓」欄に、「お客様との思い出が宝」と題して75歳の販売員の方の投書が載っていました。新潟三越のテナント店に60歳から働き、あっという間に15年過ぎたこと。素晴らしいお客様との出会いがあったからこそ働き続けることができたこと。退職後の人生の目標になるような素晴らしいお客様との心温まる交流の思い出などが綴られていました。
きっとこの販売員の方は、心を配りおもてなしを続けられていたのだと思います。そして、それがちゃんとお客様にも伝わっていた。
この記事を読んで、私も人生の目標を分けていただいたような気がいたしました。
デパートといえば、私は高級ブランドのお店は敷居が高くて、ずっと入って商品が見たくても、とても入れませんでした。でも、あるエッセイを読んでからは入ることができるようになりました。それは、「時間があるので、買わないけれど見たかったの。」と筆者が言ったら、店員さんは「どうぞ、どうぞ。見るだけでも服達はきっと喜んでいますわ。調度今お客様がいらっしゃらなくて時間がありますよ。いい機会だからファッションショーをしましょう。」と言って、さまざまな服を試させてくれたというものです。
これを読んで、一流店の店員さんは、決して客に嫌な思いをさせるような応対をしないに違いない、と思いました。そして勇気を出して入ってみたかったお店に入ってみました。親切で心地よい応対の中で、素敵なものをたくさん見ることができ、長年の思いが叶いうれしかったです。高級店に対する心の重荷がなくなりました。
投書の方がこのエッセイの店員さんと重なりました。
清水園のお庭のように、心が開かれ、心の重荷をさっと取り除いてくれる、そんな言葉を持ちたいと願っています。
清水園/ ひろ