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お天道様

 足軽長屋の屋根の修理工事が始まりました。工事の初日は雪が積もり、大変寒い日でした。あいにくの天気で大変だなぁと思いながら出勤すると、工事の方はもう早くから来ていらして、準備に入られていました。突然大粒の霰が降ってきたり、みぞれになったり、吹雪いたりと大荒れの一日でしたが、夕方頃にようやく落ち着き、晴れ間が見えました。
 その間、工事の方は黙々と木材を運ばれ仕事をなさっていました。庭の手入れをする作事さんたちも、同じように、園内のあちこちで全身防寒着で濡れながら働いていらっしゃいました。私は一人暖かいストーブを背に、屋根に守られて仕事をしておりました。悪天候の時は、いつも、外で仕事をなさっている方に、申し訳ない思いにとらわれます。それが仕事と言われればそれまでなのですが。
 自然と関わる外での仕事は、全てが天候に左右されます。人間が思うように、「仕事をしやすい日」なんて、たくさんあるわけではありません。だから、天気が良いことは、本当にうれしくありがたいことだと外で働いていらっしゃる方々は感じていらっしゃると思います。そして、その感覚は、自然がなくては生きてはいけない私たち生物にとっては、大切な感性だと思います。自然とつながって生きていると意識できる感性は。
 今日私が食べた物も、着ている物も、使っている物も、どれ一つとして、自分で生み出したものはなく、誰かが働いて生み出してくれたものです。この暖かい受付の部屋だって、誰かが、悪天候の日があっても、ずっと建て続けてくださったから、出来上がったものでした。誰かに支えられ誰かとつながっているという感覚、そして生きるためには自然とつながっていなければならないという感覚。これを忘れてはならないと思います。
 今日はお天道様が見える。今日は風が心地よい。緑が色鮮やかで光を浴びてきらめいている。自然の中で生きていることを、自分は全身で受け止めているかなぁと、外に出て確かめてみました。それが、ありがたい、幸せと感じて生きていたら、自分の中で眠っていた「生物としての自分」が目覚めて、体の中の細胞が活性化し、今生きていることをもっと享受できるような気がしました。
 私の祖母は、早朝に散歩することが好きで、ずいぶん早く起き出かけていましたが、明け方にお日様が空を昇ってくるのを深々とお辞儀をしてお迎えしていました。小さく何か祈りの言葉を口ずさみながら。子どもの頃は見ていても、何も感じなかったけれど、今は祖母はお天道様とつながって生きていたのだなぁと尊敬の思いが湧いてきます。毎日生きていることが、尊くありがたいことだったのだ、そしてそれはお天道様のおかげであると感じていたのだと。
 全身でものを見て、聞いて、嗅いで、触れて、味わえるように、周りの世界にもっと目を向けて、つながりを意識して生きていきたいと思います。今日、屋根に葺く「茅」を初めて身近で見ました。勤めていなければ、一生なかった経験だと思います。細胞がククッと動き出しました。

清水園/ ひろ

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by hoppo_bunka | 2020-03-27 17:11 | 清水園 | Comments(0)

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