聞きながら、思わずにこっとなり、はっと心が打たれました。子どもの頃って、新しいことを経験するのは本当に、一大事のすごいことだったのだと思い出しました。タクシーに乗れた、というワクワクした気持ち。子どもって素敵だな。世の中が神秘や感動に満ち溢れているんだな、私はいつからそういう気持ちを忘れてしまったのかな、と思いました。
10月以降の来園予約に、小、中学校の見学(校外学習や修学旅行など)が入るようになりました。
これをきっかけに、若い世代の方々が日本庭園に関心をもってくださるといいなぁと思っています。
でも、私自身は、お庭への関心が高まったのは、ここ2年くらいのことなのです。小、中学生の頃は、きれいだな、と思うことはあっても、今ほど感動することも、興味もありませんでした。自分がそうなので、お庭の良さを理解するには、ある程度年月が必要なのかもしれない、子どもたちには難しいかもしれないな、と思ってしまいました。
だから、タクシーに乗ったことに感動する女の子を見た時、自分の中にある決めつけ、思い込み、に気づかされ、はっとしました。庭の良さなんて、子どもにはわからない、と決めつけていたこと。見るもの、聞くもの全てを思い込むことなく、あるがままを受け止められるのが、子どもであるのに。そんな子どもの感性を、自分のちっぽけな体験の枠の中でしか考えていなかったことを反省しました。
物事を深く理解するためには、答えを急いではいけない。学生時代にそれをあんなに心掛けさせられていたはずなのに。
毎日新しいことを吸収して考えを形成している子どもたちです。とらえ方は千差万別。すごい!と思う子もいれば、何にも心を惹かれない子もいるかもしれません。でも、人生の形成に関わること、例えば可能性や感受性などに対しては、答えを急いではいけません。
北方文化博物館の前館長だった八代目伊藤文吉は、スウェーデンのカールスタッドという小さな町を訪れた際に現地の子どもたちと仲良くなりました。翌朝ホテルのフロントで1通の手紙を受け取ります。そこには「あなたにとって、この町は一泊で通り過ぎてしまう町かもしれないが、もっと色々見る所が多い町です。今日から2日間私たちは学校が休みです。お願いだからあと2日はこの町にいて下さい。僕らが色々案内します。カールより。」と書いてありました。そして、まず最初に連れていかれたのが、博物館だったといいます。
そのことをきっかけに、博物館というものは、地域に根差し、一部の人だけでなく、みんなのものとして親しまれ、訪れる人が道草できる安らぎやふるさとのぬくもりを感じるところであってほしいと考えるようになったといいます。
子どもたちが明日の世の中と地域の文化を受け継いでくれる大切な担い手として尊重されていけば、地域への愛着と誇りをもって成長し、文化が日常生活の中に入り込んでいくのだと思います。
清水園を訪れた子どもたちも同じように、出会う人に誇らしくこの園のことを話してくれるような、そんな園であるように、前館長が込めた思いもお伝えできるようにしていきたいと思いました。
清水園は日曜と祝日は小、中学生の入園料は無料です。校外学習をきっかけに、小、中学生の皆さんが、お友達同士で気軽に来園され、四季折々の風情を楽しんでくださるようになると嬉しいです。
「気持ちいいね。おじいちゃん、おばあちゃん。」と言って駆け回っていらしたお子さんが、成長して今度はお孫さんと一緒に来られるように、地域の誇りと思っていただける園でありたいと願っています。
清水園/ひろ