「ずっと来たいと思っていました。ようやく来れました。」とおっしゃったお客様。お庭がお好きで各地の庭園を訪ねていらっしゃいますが、コロナウィルスの影響で出かけられなかったとのこと。お昼に来園され、レストランでお食事をされた後、4時ころまで「今日は十分お庭を楽しみます。」とおっしゃって眺めていらっしゃいました。その佇まいが、お庭の中に溶け込んでいらして、1幅の絵のように見えました。
自分の大好きなものと一体化できるって素敵だなぁと思いました。この美しい自然の中に溶け込んでいけるように、私も澄んだ心で自然とつながる生き方をしていきたいと思いました。
先日義母と村上に旅行に行った際に、お父様とお嬢様のお二人で参加された方とバスの席が近くになりました。時々聞こえてくる会話や散策をしている時のご様子から、お嬢様がお父様をいたわり気遣っていらっしゃるのが伝わってきて、素敵だなぁと思いました。お父様は参加者の中で1番の御高齢でした。お二人の歩いていかれる後ろ姿を見て、私も亡き父とあんな風に秋日和の城下町を散策してみたかったなと羨ましく思いました。父は58歳で亡くなりましたが、亡くなる前に「どこにも行かない。いつも側にいる。」と言っていましたので、私は父の分も含めて、命ある限り、体験したことのない世界を父を連れて味わおうと思っています。
昼食時にサプライズがありました。
お父様が趣味のマジックをお嬢様をアシスタントにしてご披露されたのです。マジックショーの衣装に着替え、披露なさるお姿は、つい先ほどまで見せていた「穏やかなおじいちゃん」の姿は全くなく、生き生きと魅惑的で、いたずらっぽい少年のような目で謎めいた世界に見ている者を引き込んでいかれました。BGMは「半沢直樹」。畳み掛けるように曲に合わせて次々とマジックを披露なさいました。
マジックは銀行を退職してから始められたということでしたが、生真面目なお仕事とのギャップもおもしろく、マジックを生き生きと披露されるお姿に、思いがけない感動と楽しさをたくさんいただきました。
翌日閉園10分前に駆け込んでいらっしゃるお客様がありました。「もったいないですが。」とお伝えすると、「この時間帯の写真を撮るのだからいいんだよ。」とおっしゃって飛び込んで行かれました。写真を撮る方にとっては、瞬間の光と影が命。チャンスは一瞬、一度きりの勝負です。しかも自然が相手ですから、そのあるかないかの一瞬に懸ける。撮った写真を見せてくださると、今まで知らなかった書院の顔がありました。
そのお客様は翌々日もお出でになり、「今度は違う所が良い時間なんだ。」と、また、園に走っていかれました。
お会いした方は皆私より年上の方ですが、「人生のエキスパート」であり、好きなものに浸る喜びにあふれていらっしゃいました。自然とつながる、喜びとつながる、一瞬の時とつながる、それぞれの生き方は、見ているだけで力を与えていただき、私の今後の人生の道しるべとなりました。
「ヒマな時に好きなことをやろうなんて、好きなことに失礼だ。他に誰もいなかったから、あなたとデートしましょうと言っているようなもんだ。」と作家の中谷彰宏さんが言っています。
人生はさまざまな制約との折り合いで過ぎていくけれど、その中でも大切にし続けているものを全力で追い求めていこうと思いました。
村上旅行では、私も若林家の美しいお庭を見ることができ、義母と二人で松の美しさに見とれながら、幸せなひとときを過ごすことができました。そして美しいなぁと思いながらも、見ることに加えて、園内を巡ることもできる清水園が与えてくれる心地よさを、改めて実感することができました。
お好きな時間帯、時季に、どうぞお庭に心地よさを味わいにお出でくださいませ。
清水園/ひろ