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付加価値

 受付のカウンターに置いてある「安田瓦の三角盃¥2,200」
「なに、これ!」と話題は呼ぶものの、なかなか売れません。「世界一飲みにくい盃」というネーミングは関心を呼び、手に取ってはいただいているのですが。
私も買って試してみましたが、確かに飲みにくく、うまく口をつけないと、脇から、だーっとこぼれてしまい、工夫してようやく飲むことができました。
北方文化博物館本館の屋根瓦と同じ安田瓦で作られており、側面には障子の模様、そして、底には六代文吉がデザインした「丸元」の略紋があります。形は三角で、茶室兼書斎である三楽亭を思い起こさせます。本館に対する並々ならぬ敬愛の思いが込められたデザインだからこそ、手にした時に本館の佇まいや当主の広く豊かな心意気も思い起こさせ、味わっていただける逸品だと思うのですが。笑われて終わっています。

 かく言う私も、買った当初は、そんなに深く思い入れを持ってはいませんでした。見方が変わったのは、先日義母と行った村上旅行で、ある服飾工場を見学してからです。
 皆さまは、新しいワイシャツなどを箱から出して着ようとする時、襟や袖、カフスなど、あちこちがピンで留められていたり、ボール紙が入っていたりして、煩わしいと思われたことはありませんか?私はいつも、こんなにしなくていいよ。ゴミだって増えるし。すぐに着るのだし。なんて、厄介な物、というイメージで、ピンやボール紙を見ていました。
 でも、その工場を見学して、細心の注意を払いながら、縫製をし、組み立て、検品、仕上げをされている作り手の方々の作業を見た時、美しく良い物を作るのだ、という思いが伝わってきて製品に対する見方が、ガラリと変わりました。製品を美しく完璧な形でお客様にお届けするのだ、というプロの誇りを守る形で、私が煩わしいと思っていたピンやボール紙が使われていたのだと、用いられている物の中にある、作り手の気持ちをようやく理解しました。
 物を手にした時、そこに込められている付加価値がわかると、見方も扱い方もまるで違ってきます。3月には、安田瓦の工場見学に行く予定です。そこに行って、制作されている方々のご様子を見ることができたら、更に、三角盃の魅力をお伝えできるようになるかもしれません。そうなる日を待ち遠しく思っております。

 肢体不自由な子どもたちの施設「ねむの木学園」の園長であり女優の宮城まり子さんは、松下政経塾の創設当時、役員の一人でした。
塾の食堂で食事をされた際に、使われている食器がプラスチックであることを見て、こんなことを言われたそうです。
 「日本の指導者を育てる塾でプラスチックの食器を使っているのね。こんなことでは、この塾から大した人は出てこない気がする。ねむの木学園の子どもたちは、お茶碗ひとつ持つのもままなりません。それでも食堂では全て落としたら割れる陶器を使っています。落としたら割れることを知っているから落とさないようにしっかり持とうと努力する。これが教育です。」
 この言葉を受けて、食器は全てプラスチックから陶器に変えられたそうです。

 スムースには取り外せないワイシャツ。しっかりと持たなければならない陶器。すんなり飲むことのできない盃。楽にさっとできるスピードが尊重される社会の中で、こだわりを持って生まれ出てきたものたち。抵抗の中に、皆、学びの要素が含まれています。

清水園/ひろ

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by hoppo_bunka | 2020-12-12 16:43 | 清水園 | Comments(0)

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