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父に会う

 「とっても嬉しいことがありました。」と帰り際にお客様が教えて下さいました。
園内を説明する絵の案内板があるのですが、それを描いた方が、そのお客様のお父様だったというのです。
「父がこれを描いている時に、どうしようかあれこれ悩みながら描いているのを私は側で見ていたものですから、この絵を見て、久しぶりに父に会えた気がしました。まさか、まだここに残っているとは思いませんでした。思いがけず出会えて嬉しかったです。」とおっしゃってお帰りになりました。
 確かに改めて見ますと、建物と庭がよくわかるようにまとめて描くのは、苦労なさったことだろうと窺えます。悩みながら一生懸命描いていらしたお姿は、お嬢様の脳裏にしっかりと焼き付いて、絵を見た途端にお父様のお姿が浮かんでこられたのでしょう。
 一本一本の木々の特徴も良く描かれていて、当時の園の様子が偲ばれる案内板です。
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 同じように、私も亡くなった義父を思い起こすことがありました。
大雪で清水園も臨時休園になった5日間。毎日の雪かきは重労働でした。自分の家の周りですらこんなに大変なのだから、清水園はどれだけ積もったことだろう、と思いを馳せていました。
 我が家は6軒並ぶ通りの奥から二軒目です。雪が積もると義父は毎朝まだ暗い5時前から、「よし。」と言って外に出て雪かきをしていました。まだどなたも出てこられない中、自分の家も含めて通り全部をする勢いで、毎朝それが当然の仕事のようにやっていました。ご高齢であったり、力仕事が出来なかったりと、雪除けが出来ないお宅も中にはあります。ご近所の方々から、「おじいちゃんがして下さるので、本当に助かる。」とよくお礼を言われました。
 義父がやっていると、途中から夫が加わり、亡くなってからは、子どもが夫と二人で路地の雪を除けていきます。私も家の裏側の駐車場の方を除けていましたが、それが終わった後、目の前のお宅の玄関口にまで溜まっている雪を見て、きっと義父だったら、これも除けているだろうな、と思いました。その日は臨時休園でずっと家にいることになったので、時間もあるし、ついでだ、と思って除雪を始めました。
 次の日の夕方、そのお宅の方がわざわざ家にお礼を言いに来られました。一人暮らしの上、仕事にも行かなければならず、自分ひとりでは到底できなかった、本当に助かりました、と言われました。こちらのほうこそ、お役に立つことができたという経験をさせていただき、ありがたく嬉しかったです。

 臨時休園の間は仕事に行く夫の代わりに、路地の方の雪かきもしました。義父の姿を思い出しながら、よく毎日こんな距離を除けていたなぁ、おじいちゃんはすごかったなぁと思いながら、義父のようにはできないので、毎日少しずつ除けました。路地の入り口の固まった圧雪に苦労していると、ずっと待っていた除雪車が目の前の通りを除雪し始め、みんなが苦しんでいた圧雪をどんどん除いていってくれました。
 除雪車はいいなぁ。ああ、あの力が欲しいと思いました。運転手さんが、救世主のように見えました。力のあるものは、こうして力のないものを助けてくれるんだなぁ、強さとは、弱いものを助けるために与えられているんだなぁとしみじみ思いました。

 一昨日、通勤途中、強く頼もしい除雪車がチェーンを付けて目の前にいました。道路を通っている時も、信号待ちで止まっている時も、運転手さんは天井に跳ね上がらんばかりに、振動で大きく体を揺らし続けていらっしゃいました。上下にずっと揺れ動いている様子を見て、はっとして目頭が熱くなりました。 
 
 うらやましいな、あれがほしいな、強さの塊と思っていた救世主の除雪車は、運転をする人にとっては、大変乗り心地の悪いもので、その上で一日中仕事をしなければならないのでした。いともたやすく雪除けを行っていると羨ましく思えたその人は、ずっと居心地の悪い車内で我慢しながら仕事をしていらっしゃるのでした。
 おそらくどんな「仕事」にも、他の人からはわからない苦労は含まれていて、みんな、それをこらえながら働いているのだと思います。生きるためにというのは勿論ですが、自分の苦労の中に、誰かの役に立つことや、誰かを幸せにすることが含まれているから、人は頑張って責務を全うしようとするのだと思います。

 一生懸命描いていらしたお父様と、毎日雪かきをしていた義父、そして揺れ続けていた除雪車の運転手さん。苦労を伴うその姿は、誰かの胸に残る、胸を熱くする姿でした。

 一昨日来園なさったお客様から、「あれだけの雪を除けられて道を作られたのは、大変でしたでしょう。」と労りのお言葉をいただきました。

 道は、人。そう思うようになりました。
 
清水園/ひろ

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by hoppo_bunka | 2021-01-28 16:54 | 清水園 | Comments(0)

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