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うつろいを味わう

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 春過ぎて夏来たるらし しろたへの衣干したり天の香久山 持統天皇 

 6月に入り衣替えの季節を迎えました。私も早速袷から単衣に替え、足袋と半襟を麻に替え涼しくなって喜んでいます。着物を着るまでは、「衣替え」といっても、日付しか意識しなかったのですが、単衣や夏帯になると、断然身軽に涼しくなり快適で、古人もきっとこの軽やかさを喜んでいたのだろうな、と実感しています。僅か一枚の差ですが、クーラーをつけて快適な部屋の中に年中いたら味わえない喜びです。
 古人は「しろたへの衣」を見た瞬間に、辺りを吹き渡る爽やかな風やそよぐ木々の葉の緑の鮮やかさ、そして香りまで、全身の感覚で季節を受け止めていたことでしょう。

 日本は四季という素晴らしい天からの贈り物をいただいている国だと思います。
季節の移ろいを大切に味わう暮らしは、旬の物を食べたり、時季の花を飾ったり、掛け軸やディスプレイを替えたりなど、さまざまなことがありますが、どれも、どうしてもそれがなければならないというものではないけれど、意識して取り入れたら、暮らしに喜びをもたらすことばかりです。
 4月5月では、ふきのとうやタラの芽など山菜の天婦羅やたけのこご飯を作ると、家族はとっても喜びました。今の時季であれば、新玉ねぎのスライスや茹でたアスパラ(新発田産は甘くとってもおいしいです。)など、その1品があるだけで食卓は笑顔になります。

 先月上越の名家を5家も一度に見学させていただける贅沢なツアーに参加してきました。どのお宅も季節の野花を家のあちこちにさりげなく飾られていて、家も野の花もそれぞれを引き立てていました。私はバラが好きだった亡父に供えるために、花壇にたくさんバラを植えているのですが、季節ごとに自然の野の花が咲くお庭も、1年のしつらいを楽しむことができて素敵だなぁと思いました。花壇ではなく、自然のお庭を作れたらいいなと憧れました。
 その中に、借景の素晴らしいお宅がありました。遠くに雪がまだ残っている山々の峰が見え、眼下には水田が広がり水面を日の光が照らし遠く彼方へと心を解き放ってくれるようでした。それを見て、家を建てることは周りの風景も共に買うことなのだと思いました。そして、その風景は時間と共に変わっていくということも考えなくてはならないのだと思わされました。
 風景の大きな力を感じるそのお宅は、同時に、ただ一輪の野の花を飾り愛でるつましく静かで清らかな暮らしも受け継がれていました。

 最近、オートファジー(細胞内の古くなったたんぱく質が新しく作り替えられること)も含めて、私たちの体の細胞はほんの少しずつ毎日入れ替わっていることを意識して考えるようになりました。命の続く限り移ろいゆく中に生の営みがあるのだから、変化を生活の中に取り入れて生きていくことは、人間の本能なのだと思いました。

 清水園の門を入ってすぐ、百閒馬場で「わあ、綺麗。」とよくお客様がおっしゃる木々は今、さまざまな緑の葉が陽射しを受けてお迎えしています。昨日と今日とでは違う色合いで、新しい命をみなぎらせて。それがきっといらっしゃるお客様に伝わり、お客様の細胞と共鳴し合うのだと思います。
 少しずつ衰えていく我が身にも、旬の瞬間が絶えず訪れているということを知ると、嬉しくなりました。この命の輝きを大切にしなければと思います。

清水園/ひろ

 

by hoppo_bunka | 2021-06-08 17:12 | 清水園 | Comments(0)

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