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蝶になる

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 夏本番、といったお天気が続いています。にぎやかに蝉の声が聞こえ、キアゲハが木陰からひらひらと飛び立っていきます。今日も暑いなぁと思っていると、「ちょっと、ちょっと。」と呼ばれて外に出ました。指さす上空にはニコニコマークが。思わず側にいらした方にも声掛けをしました。
 事務所に戻って調べると、エアレース・パイロットの室屋義秀さんが白いスモークでニコちゃんマークを空に描く「Fly for All#大空を見上げよう」フライトでした。7月19日の12時から、新潟県内8か所をフライトし、描かれるとのことでした。ほんの数分でも空を見上げる動作によって気分をリフレッシュし、少しでも明るい気分になってもらいたい、という想いを込めてフライトされるそうです。
 今日そんなことが行われるとは知らなかったので、思いがけないプレゼントをいただき嬉しくなりました。素敵な事が起こると、思わず誰かに教えたくなる。喜びを伝え合い共有したくなる。人ってそうだと思います。先日もスーパーの駐車場に車を停めて外に出ると虹がかかっていて、思わず周りの人に「虹が出ていますよ。」と声掛けをして、見ず知らずの方々と幸せなひと時を一緒に過ごしました。
 思いを形にして伝えるって、大切な尊い動作だと思います。自分でもし、それができなければ、他の誰かが思いを汲み取って、代わりにすることも。

 空に自由に絵を描くことができるなんて、なんて素敵なことでしょう。子どもの頃から私の夢は、空を自由に飛べることでしたので、羨ましい限りです。できれば、ドラえもんのタケコプターのように、身一つで空を飛びたいのですが。だから、鳥も蝶もトンボも、空を自由に飛べるものは、みんな憧れです。
 
 蝶になれる人がいました。ジャン=ドミニック・ボービー(故人)。世界的なファッション誌『ELLE』の名編集長で働き盛りの43歳の時に脳出血で倒れ、その後は全身麻痺で自力で呼吸もできない状態になりました。唯一動かすことのできた左目のまばたきを使って意思を伝え本を書いた人です。肉体的なダメージは計り知れないものがあっても、彼の意識や知力は完璧に元のままだったのです。まばたきを使った新しいコミュニケーション方法を身に付けた彼もすごいし、彼の意思をまばたきを見続けて読み取っていった人もすごいと思います。

 目覚めた時は踵が痛い、頭も痛い。鉄の塊がのっているようだ。体中、重たい潜水服を一式着込んでしまったようだ、と表現する状態で彼はベッドに横たわっています。でも、心は?そんな時でも、彼の心は蝶々のようにひらひらと舞い上がり、したい事に向かって、時も場所も超えて向かっていく。愛しい女の人のかたわらにすべり込んで、まどろむ顔を優しくなでたり、スペインに城を建て、神話の黄金羊毛を手に入れるなど、夢や憧れをみんな実現させたり。彼が20万回のまばたきを繰り返して書いた本『潜水服は蝶の夢を見る』を読むと、自分の心を他から蝕まれずに守り抜くことの尊さを教えられます。
 リハビリをする際に、ジョギング・スーツを着るように勧められても、世界のファッションをけん引してきた彼は、断固それをおぞましいものとして断ります。それこそが、自分がまだ自分自身であるという証なのだとして。これからの人生が半ば開いたままの口からよだれを流し続けなければならない定めであるとしても、僕はカシミアの上に流したい、と言い切るのです。

 蝶になって、この広いお庭を飛んでいくことを想像しました。思ったこともなかったことだけれど、岬灯籠の上で羽を休めたり、大池の水面すれすれを水面に映っている白い雲に乗って飛んだり。
 崇高な思いを抱き人生を諭してくれるのも人。そして、一人では表すことのできなかったことを、世の中に伝え広めてくれるのも人。
青く光り輝く夏の空も美しいけれど、人の思いが描かれた空も美しかった。人と一緒に生きていくって、素晴らしい。意思を守り抜くって素晴らしい。高ぶった心を吹く風がさっとなで、鎮めてくれました。
 生き続けるって素敵です。かなえたくてもかなえられない、そう思っていたことが、一つできました。

清水園/ひろ
 


by hoppo_bunka | 2021-07-19 17:17 | 清水園 | Comments(0)

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