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思いを埋める

 行きたい場所はどこ?
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 「石ばしる垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも」
志貴皇子の歌のように春がやってきました。

 「パタゴニア」~嵐の大地~
そんな、言葉の上でしか知らなかった場所が、急に人生の中に降りてきました。

 きっかけは、昨日義母と行った「人形浄瑠璃と岩の原ワインの夕べ」で、同じテーブルに居合わせた女性のお話です。偶然居合わせた5名のうち2人の方が山歩きが好きで、これから絶対に行ってみたいところ、今まで行って本当に良かったところ、という話の中で、「パタゴニア」の名前を挙げたのでした。

 南米の風が強く吹く、氷河が見られるという、その場所に、偶然にも、行きたいとずっと願っている人と、行って本当に良かったと思っている人が、佐渡の文弥人形を継承する人形浄瑠璃「猿八座」のサントリー地域文化賞受賞記念公演で居合わせるなんて。
 トレッキングに興味が無かった私でも、そこに導かれるような気がして、家に帰ってから調べる気持ちになりました。 

 お一人の方は航空券まで取ったのに、新型コロナウィルスのせいで行けなかったこと、2年前に夫を亡くしてからは、毎日山歩きに出かけていることなどをお話されました。そして、山には、これが見たかった、と思えるものに出会えるから、行くのをやめられないとおっしゃっていました。一人だから、自由気ままだし、とも。

 人形浄瑠璃は佐渡出身の義母が、きっと懐かしく思うだろうと思い、申し込みました。ここ2年程、義母といろいろな所に行くようになりました。本当は実家の母も連れて3人で出かけたいのですが、腰が悪く乗り物にずっと乗っていることが難しいです。感染拡大も気にして近い所へも行きたがらず、いつも2人旅になります。
 義母も母も、もう、自分の行きたい所や見たいものがあっても、一人で行くことはできなくなりました。たとえ心の中で思う場所があっったとしても、口に出すことは遠慮してしません。だから、興味がありそうなツアーや催事があると、誘って出かけます。あと何回できるか、動けなくなるまでは、二人とも連れて出歩きたいです。
 
 夫も若い時からずっと北海道に行きたいと言っていながら、未だに一緒に行くことができずにいます。願いをかなえてあげたいけれど、夫もまとまった休みを取ることがなかなかできない仕事なので、かないません。夫を亡くされた方のお話を伺ったら、ますます夢をかなえてあげたくなりました。

 昨夜久しぶりに亡くなった祖母が夢の中に出てきました。特別養護老人ホームの玄関の前で車椅子に乗って、「じゃぁ帰りましょうかね。」といつものように口にします。それを聞いて、「また来週会いに来るからね。元気でいてね。」とぐっとこらえて祖母を置いてドアの外に出ます。思い出したら、泣いてしまいました。

 帰りたかったんだ。家に。でも帰れない。自分でどうすることもできないし。私たちもどうしてやることもできなかった。
行きたいところは、我が家でした。
 できないけれど、それでも口に出してしまう「帰りましょうかね。」という言葉。それを知りつつ叶えてあげられず死なせてしまったことへの抑えきれない思いは、時折ふっと襲って来て、心をいっぱいにします。そんな時、人には心を埋める場所や時間が必要なのだと思います。

 書院のお雛様を見て、お庭を歩きます。カモの邪魔をしないように池に近づき、少しずつ少しずついつもの自分を取り戻していきます。
昨日お会いした方も、きっと山を歩きながら、思いを鎮め、今の生活を少しずつ、少しずつ受け入れていかれるのでしょう。思いを埋める場所は、ふと気がつくと、明るい喜びに満ちている。
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 残されていく方が、いつもさみしい。でも自分の人生を行かなきゃね。カモさんもそう言っています。
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 猿八座の演目は、「信太妻 葛の葉子別れの段」でした。

清水園/ひろ

 

 

 

by hoppo_bunka | 2022-03-25 17:10 | 清水園 | Comments(0)

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