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美に浸る

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 月の美しい季節になりました。
見上げると、「美しいものはいい。」と心からそう思います。そして、この光景を見ることができる喜びを感じます。散歩の最中でも、眠りにつくベッドの中でも。
 静けさも、空間も、月の光の中で、一層澄み亘っていくように感じられます。

 9月9日は中秋の名月の一日前でした。りゅうとぴあの能楽堂では、定番の松の鏡板が外されて、外の竹林が見える設えになっていました。幻想的な雰囲気の中の能は、一段と風情があり、別世界に浸る幸せを感じました。

 10月7日の能では、装束の解説がありました。山口能装束研究所の方から、江戸期の装束のもつ素晴らしさを教えていただきました。
品位の高い精緻な美しさはどんなに復元したいと思っても、原材料がどんどん失われ環境も変わってしまい、ほとんどできないのだということを知りました。その工程の難しさ(蚕の吐く糸も染料も当時の方がはるかに上質で美しく、しかも軽い)、江戸期に近づける努力を教えていただきました。
 お仕事の内容が全て絶滅危惧に該当するものでしたが、今できる最大限のことをして復元に近づけた作品は本当に美しいと思いました。   

 そして、ようやく能を見る楽しみが一つできました。今まで「音」の方面からしかしてこなかったアプローチに、色彩の面からのアプローチが加わりました。それまで装束をそんなに詳しく見ることはありませんでした。でも山口さんのお話を伺ったあとでは、糸を創り出す人、色を染め上げる人、織物に織り上げる人、それぞれの工程に携わる人の姿が浮かんできて、もっとじっくり見たい、味わいたいと思うようになりました。渾身の人の努力や熱意が込められていると思ったとたんに、物の見え方が大きく変わったのです。これは能の素晴らしさがわからなかった私にとって、大きな喜びでした。
 
 私は石岡瑛子さん(アカデミー衣装デザイン賞を取り、北京オリンピックのコスチュームディレクターも手掛けた)のデザインが大好きなのですが、彼女の「血が汗が涙がデザインできるか」という言葉が、山口さんの能装束を見てお話を伺っているうちに、浮かんできました。優れたものには、制作者の命が立ち現れるのだと。そして私のように感性の鈍い者には、ものの本質に導いてくれる人が必要なのだと。この人に出会わなければ、この美しい世界を知ることはなかったのだと。

 10月1日の茶室鑑賞ワークショップでも、同じことが起こりました。それまでにも清水園のお茶室には入って、自分なりに趣を味わっていたはずなのに、ワークショップに参加した後では、お茶室に座っている時の居心地が変わりました。先生のお話を伺いながら、こんなことを伝えたいと願ってこのような設えにしたのではないだろうかと思ったり、どなたをどのようにおもてなししようか、軸は、お花は、お道具は、御菓子は、お茶の味わいは、など想像したりする楽しさが湧いてきました。

 優れたものには、必ず込められた人の思いがある。しかも五つも趣の異なるお茶室があるのですから、それぞれの趣を味わうために、もっと多くのお茶室を見て、込められている命の本質を見出せるようになりたいと感じました。
 人からのお話によって導かれた美しさへの道。それに出会えた喜びのなんと大きく、味わう世界を変えたことか。

 秋は心にしみわたる趣に出会える季節です。「日本庭園・茶室のみかたセミナー」「茶室鑑賞ワークショップ」は10月25日(火)が後期最後の開催です。お時間がありましたら、どうぞお越しください。

清水園/ひろ

 

 


by hoppo_bunka | 2022-10-17 17:08 | 清水園 | Comments(0)

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