
午後から本格的に降り出した雪が、静かに辺りを埋めていきます。今日はお客様が一人もお出でにならず、閉園時間が刻々と迫ってきます。霙のように湿った雪なので、外で働く方がたは、冷たく濡れて、さぞかし大変だろうな、と想像します。長屋の屋根もまたたく間に真っ白になりました。

お客様がいらっしゃるのをひたすらお待ちしていましたら、昔話の『笠地蔵』を思い出しました。
きっと家で待っているおばあさんも、「この寒い中、おじいさんは大丈夫かな。笠は少しでも売れたかな。」、とずっと外を気にしながらおじいさんが帰って来るのを待っていたのだろうな、と思いました。そしてもし、笠が売れたなら、お正月のお餅が少しでも買える、という期待ももちろんあったでしょう、と。
でも、結果は一つも笠は売れなかった。その売れなかった笠もお地蔵様に差し上げてしまった。自分の被っていた笠までも。
あてにしていた食べ物もない、笠もない、でも、濡れたおじいさんの姿を見て、おじいさんの話を聞いて、「それは良い事をしなさった。」と言える心の持ちように、そんな風に思える人になれたらなぁと思います。
豊かさとか、幸せって、物の量や質によるものと、心の持ち方によるものの二つがあるのですね。
清貧に生きるって、私には難しくどういう生き方を指すのかよくわからないけれど、このお話を読んで、このおばあさんのような言葉をかけることができる生き方を指しているのではないかと思いました。
16時近くになりました。「混んでいるので、今日は取りに来れないので明日来ます。」と電話でおっしゃった宅配便業者の方が、雪の中、走って「間に合いました。」と集荷に来てくださいました。
一生懸命働く姿は尊い。たとえそれが利益に結びつくことがなくても。それをおばあさんは、感じ取ることがきっとできたから、おじいさんを労わることができたのですね。
自分ができることを精一杯しなくちゃね、と思わされた雪に埋もれた一日でした。
清水園/ひろ