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良きものに触れる

 
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 長岡技術科学大学の中川匡弘教授が、燕市にある洋食器製造の山﨑金属工業と連携し、スプーンやフォークの使い心地を、脳波の解析により数値化した、というニュースが新聞に報道されました。それによると、研磨工程の多い「高仕上げ品」は、数百円の商品と比べ、食べ物にすっと入れたり、刺したりした時の感触が、最大で6倍良いとの結果を得たということです。
 このことに関しては、それより前にNHKの番組で取り上げられていて、ゲストの方たちのコメントが、「まるで違う。こっち(高仕上げ品)の方が、断然良い!」と絶賛していたのを見ていたので、本当だったのだ、心地よいという感覚を、ちゃんと数値で実証したのだと思いました。
 差し込む時の入れ心地、口から出す時の抜け感、金属臭など、より良い使い心地を求めて積み上げてきた企業努力が、使う人にしっかり届いて、心地よい、美味しい、といった幸せを生み出していると思いました。

 東南アジアなどで安価な洋食器が大量生産されることによって、燕市の洋食器は大打撃を受けるだろうな、と思っていましたが、さすが不死身の産地と呼ばれる燕市です。品質を向上させることで、安さに対抗する価値で勝負してきました。
 前回Twitterで、清水園を使い心地の良いペンに例えて、心を込めて作られた優れたものには、そのものの価値にプラスして、幸せを与えるという上質な価値がある、というお話をさせていただきましたが、技術の進化は、人を幸せにすることにつながっていて、そこには、それを願い求める、人の熱い思いがあると感じました。

 自分が誰かに届ける(例えば、洋食器や筆記具だけでなく、衣服や眼鏡、マスクなど、)ものは、ただの物ではなく、その人の人生に寄り添うものという考えで、技術革新は進められてきたのだと思います。そうした仕事に込められた思いは、触れる人に伝わって、感動を与えます。そのような仕事を、私もしたい、できたら、と思いました。

 受付でお客様と触れ合うことのできる時間は、ほんのわずかです。でも、口の中にスプーンが入った瞬間は、それよりもっと短い。でも、感動を与えることができる。職人さんたちの努力と技術に比べたら、今の自分は何もしていないのに等しいと思いました。

 燕市は私が育った町です。友達の家の多くは、「みがきや」と言って、家に機械が何台かあり、洋食器を磨く音や型を抜いたり、プレスしたりする音が響いている家でした。子どもの頃は、もの作りに込められた思いなど、全く汲み取れませんでした。スプーンはただのスプーンにしか見えませんでした。
 技術を捨てた町は、滅びます。燕市が、何度も何度も、不況の痛手を受けながらも、今日まで耐えてこられたのは、幸せを与える、という価値を目指し、技術を磨き上げてきたからだと思います。

 清水園に来てくださるお客様は、見ているだけで、その場所にいるだけで、満たされていらっしゃることと思います。お客様がそのまま十分満足されてお帰りになられるように、心して勤めたいと思います。

清水園/ひろ


 

by hoppo_bunka | 2023-02-26 16:45 | 清水園 | Comments(0)

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