大門の周りの木々もすっきりと整えられました。門も誇らしくお客様をお迎えしております。私も、今日の始まりを、もう一度ここで迎え、気持ちを門に寄り添えるように整えます。美しい日のスタートです。
私は猪年生まれ。声や話し方で、おっとりしているとよく誤解されますが、性格は激昂する感情起伏が激しい、猪突猛進型で頑固です。始末が悪いですね。自分でも、怒りが湧いて来た時は、喚き散らしたいという衝動に駆られ、抑えるのに苦労します。というより、逆に大事にしたくなる。
先日もそうでした。朝から些細なイライラが、急いでいる余裕のない心に降り積もり、これは何か、一つ大きな事をしでかして、自分の気持ちを訴えたい、という寸前までいきました。出勤前に最悪の状態が襲ってきました。でも、仕事には行かなくては。
今日仕事が終わったら、そのまま、家に帰らないで好きなことをするんだ。一人で好きなものを食べて、行きたいところに行って、家族が心配したって構わない。そうやって発散して㏚しないと気が済まない。そんな風に思いながら着物を着ていくと、不思議なことが起こりました。
着物は作り手の心がこもった、美しい生地でできています。それを高ぶった体に少しずつ重ねていくと、こんなに美しいものを纏いながら、まだ、そのドロドロした醜い心を抱えているのか、と自省する気持ちが湧いてきました。というより、美しい布が汚い心を消し去ってくれたという感じでした。帯を締める頃には、クールダウンし、すっかり落ち着いていました。びっくりしました。手に負えなかったイライラが、すっかり収まっていました。
単純といえば単純。でも、美しいものに触れた時に、ずっと醜い気持ちを持ち続けたいとは、心は願いませんでした。そして醜い心から解放された喜びが体中に溢れました。怒りに支配された自分は、私自身も大嫌いな自分です。でも、時々それが顔を出します。対処に困っていただけに、この特効薬はとっても嬉しいものでした。
身に付けるものに、私はよく影響されます。先日、とうとう老眼鏡を使わなければならないと決心しました。もう抗えない、と身に染みたからです。ものすごく抵抗があって嫌な老眼鏡だったけれど、どうせかけるなら、かけたいと思えるものにしようと、ネットで調べて注文をしました。
届いた時、とっても気に入りました。作家さんの温かなお気持ちが伝わってくる商品だったからです。パッケージの可愛いシール、眼鏡ケースの素敵な質感、眼鏡ふきも、挟んであったしおりも、可愛らしく、物作りを愛おしんでなさっているのが、すぐ伝わってくる商品でした。眼鏡は似合わないかもしれないけれど、私はとっても嬉しくて、これで頑張っていけると確信しました。
作り手の思いが伝わるものは、必ず受け取った人に力を与える。
清水園の門も、葺き替え工事を炎天下の中、こつこつと続けていらした職人さんたちのお姿を見て、その心が伝わってくるから、私には本当に美しく貴く見えます。
美しいものを創り届けて下さる方々のおかげで、美しい日を迎えることができる。その方がたの物を纏ったり、側で働いているならばこそ、美しさに染まる生き方をしなくてはいけないね、そう思いました。
お庭は晴れやか。心も晴れやかです。
清水園/ひろ