
少しずつ夜気がひんやりと漂い、秋がやってきました。夕方から夜にかけて、目に映る様々なものは、しみじみとした趣を帯びて、物思いを呼び起こします。
先日、素晴らしい竹林を見せていただく機会を得ました。個人宅なので場所をお伝えすることはできませんが、清水園のお庭を見に来てくださるお客様でしたら、きっと素晴らしいとおっしゃっていただくに違いない、見事な竹林です。
本館、分館、清水園と庭の剪定や管理をされている方のお宅なので、きっと素敵なお庭なんだろうな、と思いながら伺いましたが、竹の数に、まず圧倒されました。そして天を目指してすっと伸びていく1本1本の竹の美しさに心奪われました。心もすうっと深淵な天に向かって、吸い込まれていくようでした。
「見に来るんだったら、夜の方が絶対良いから。」と言われた言葉通り、幽玄の世界がそこに佇んでいました。時間の制約がなければ、ずっとそこにいて、見つめていたい、何もいらない、ただ見ているだけで十分。そんな世界がそこに拓けていました。
竹林の整備をされたのは、4年前からだそうです。それまでは、住んでいながら、その良さに気付かなかったそうです。なぜなら、それは当たり前のように生活の一部として溶け込んでいたから。
でも、ある時、その美しさに気がついて、少しずつ草を刈り整備を始められたそうです。
こんなに美しい空間があるならば、どこに旅行に出かけなくてもいい、これを見ることができるのだから。そんな風に思いました。
バーバラクーニーの絵本、『エミリー』の一節を思い出しました。
「天国を見つけられなければ 地上で 天上でも見つけられないでしょう
たとえどこにうつりすんでも 天使はいつもとなりに 家をかりるのですから」
自分の家の中に、美しく心を解き放つ空間があれば、家は最高の居場所となる。どんな風光明媚な場所にも劣らないくらいの。
清水園や、広大な竹林に入って感じる、心を解き放たたせる美しい空間を、私も自分の生活する居場所の中に、創ることができたらと思いました。
地上にある天国を見つける手引きをしてくれるのは、大いなる自然です。

清水園をこよなく愛するように、私も自分の家の草木を愛そう。そして、天使が姿を見せてくれるように、1区画ずつ心を向けて整えていこう、身近な居場所をまず、大切に心を配っていこう、と思いました。目が離れがちな、冬に向かうこの時季に、春に向けて準備を進める草木と同じ様に。
まず縁側で、月を愛でる日、そんなことから、始めたいと思います。
清水園/ひろ