
今日は園内を巡るには、大変気持ちの良い秋日和でした。吹く風も心地よく静かな時間が流れて行きます。
賑やかな団体のご来園は午前のみでした。午後からは個人のお客様が、ゆっくりと園内を楽しんで回られました。
16時を過ぎますと、辺りは次第に暗くなり、人気のない書院は、いっそう静逸な空気に包まれます。それは北方文化博物館の大広間も同じことで、私は閉館前のお客様が帰られた後のひっそりとした大広間から見えるお庭の佇まいが何とも言えず好きです。
書院からの大庭と大広間から眺める池泉回遊式庭園は、どちらも田中泰阿弥によるものですが、作庭された時に、泰阿弥さんの目には、既に自分の死後も成長し趣を増していく、今の庭の姿が見えていたに違いないと思うのです。
次の世代につなぐ意志を持って作られたものは、必ずその想いを見るものに届ける。優れた芸術作品に心が動くのは、作者の想いが私たちの魂を揺さぶるからでしょう。
先日、着付けを教えて下さった先生が、陶芸の個展を開かれるので、作品を見に伺いました。たくさんある焼物の作品を見ながら、人の手によって長い時間をかけて作り上げていくものは、美しいなぁと思いました。作品に込められた先生の想いも一緒に受け取るのだと思いました。
その中で、梢に止まる小鳥の陶器フレーム作品があったので、買い求めました。家に帰り、どこに飾ろうかと場所を探し、自分の部屋の机の前の壁に、どうだろうと思って飾ってみました。
そうしたら、不思議です。プレートを付けた途端に、その小さな小窓から、風が吹き込んできました。
今まで絵を飾る時は、だいたいが部屋の上の方に飾っていて、目の前に置くということはありませんでした。でも、その陶器の小さなプレートは、目の前の壁を見事に窓辺に変えたのです。その景色を部屋に取り込むという鑑賞の仕方を、それまで全くしていませんでした。
私の部屋の一画に、私だけの窓が生まれました。机の前に座る楽しみができました。書院や大広間で味わう、ゆったりとした心地よさと同じ様に、自分の居場所も心地よさを感じることができました。というか、自分の居場所こそ、本当に、心地よいと感じられるところにしなくては。あまりにも、慣れ過ぎていて、有難さを考えずに毎日を過ごしていたのではないかと気づかされました。
芸術作品は窓。心を解き放つ。書院からの眺めも、大広間の空間も。そして私の目の前にも。
今晩は、スーパームーン。天空の最高の芸術である月を見上げることのできる幸せが、多くの皆さまに届きますように。
清水園/ひろ