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プラス 人

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 本館の藤のライトアップが4月29日から始まっています。初日は冷たい雨が降り続き、外に立っていると凍えるような寒さでした。
昼過ぎに降り出した雨は、一時激しく降り、足元には水たまりができ、靴がびしょびしょになるほどでした。
 体が濡れるのは、まだ我慢できるけれど、靴下までぐっしょり濡れてしまうと、みじめで悲しい気持ちになります。お客様がいらっしゃる頃には、なんとか小降りになってくれないかなぁと、祈るような気持ちで受付をしていました。

 その時、ライトアップのライトの設置をして下さる方が、光の当たり具合の確認をしにいらっしゃいました。園内のライトを点検されて戻っていらした時には、全身ずぶぬれ状態で、靴は水浸しでした。職員が、「大変でしたね。濡れましたね。」と声をかけると、「濡れましたね。」と、淡々とおっしゃって帰っていかれました。仕事とはいえ、すごいことだなぁとびしょ濡れのお姿を見送りました。
 
 夜になり、せっかく咲いているのに、雨の藤は残念だな、と思いながら見に行ってみると、春雨に煙るように見える藤に明るいライトの灯があたり、昼よりも趣深くしっとりした美しさが漂っていました。静かにひっそりとした夜の闇の中を藤の香が漂い、昼ずぶぬれになって帰られた方の姿を思い起こしました。

 その夜、勤務を終えて、ちょっと遠い駐車場まで歩いていく際中に、誰もいない夜更けの暗い道を一人で通るのは心細いな、と思っていたのですが、お寺のお堂が明るく照らされていて、ああ、嬉しい、とほっとしました。おかげで怖い思いをすることなく夜道を歩くことができました。
 後日、そのお堂の周りに何十個ものLEDライトを並べていらっしゃる方のお姿を見て、「ああ、あの時の明るい光は、この方がしてくださったものだったのだ。」とわかりました。
 
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 大勢の皆さまが美しい藤の花を見に、昼も夜も連日本館にいらっしゃいます。
藤の花自体が美しいのはもちろんですが、それを見る時に、この花を咲かせるための作事さんや樹医さんの懸命な技術や思い、ライトを設置して下さった方々のお姿、凍えるような寒さや雨の中、誘導してくださる駐車場の警備の方々などのお姿を併せて見ると、花の美しさにプラスされた人の美しい姿がより一層花を美しく輝かせていると思います。

 自然を見る時に、その中に込められた人の思いも見ようとすることは、清水園の庭園セミナーでも学びました。5月11日に第2回のセミナーが行われます。まだ定員に空きがありますので、お時間がありましたら、ぜひ参加されてみてください。初夏のお庭の美しさが一層深まる体験をきっと味わわれることと思います。
 
 本館の藤のライトアップは今日、5月7日と明日8日で最後です。たくさんのお客様に見ていただきたい、素晴らしい方がたに守り支えられている藤の花です。

清水園/ひろ


# by hoppo_bunka | 2022-05-07 11:06 | 清水園 | Comments(0)

つながっている

 お客様がほとんどいらっしゃらなくなった午後。
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 目の前に広がるお庭を独り占めです。

 静かにゆったりと流れる時間に身を置ける至福のひと時。

 そう思ったのですが、こんなに心地よい場所にいるのに、思いっきり幸せと思うことが、なかなかできない。

 宮沢賢治の「世界ぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉を思い出しました。

 ずっと、ユニセフ、難民救済、国境なき医師団の活動に関わってきましたが、アフガニスタン、シリアに加えて、ミャンマー、そしてウクライナと、緊急支援を求める国がどんどん広がってきています。

 穏やかとか、幸せとか、使うのに躊躇すること自体が、既にそうではないことを物語っています。

 雨が降り出しました。雨上がりの草木の葉っぱが、瑞々しい新緑の光を帯びるように、世界の悲しみを流し去って心から笑える日が来るといいのに。

 先日長岡花火ミュージアムに義母と行って大花火大会を始めることになったきっかけや、打ち上げられるそれぞれの花火に込められた思いを美しい映像とともに学んできました。義母も戦争の体験者です。あの何もかも焼き尽くされた時代を経験して、その頃はきっと思い描けなかったような今を生きています。

 幸せを、幸せと感じては申し訳ないと思うのではなく、有難いと抱きしめて生きていかなければならない。そして、その気持ちは、人と分かち合うことによって、より確かに感じ取ることができるのだ、と思いました。

 義母が生き残ってくれ、一緒にいてくれたからこそ、私ひとりでは感じ取れなかったであろう、この時間に生きている尊さを味わうことができました。

 雨がやみました。いっそう静けさが増したお庭です。そして、遠い国ともつながっている空が広がっています。

清水園/ひろ

 

# by hoppo_bunka | 2022-04-26 17:12 | 清水園 | Comments(0)

行きたいところ

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 「行ってみたいな。」と思う素敵なところが二つあります。どちらも観光地ではなく、新聞に載って初めて知ったところです。
一つはディサービス「キャバレー白鳥」もう一つは「まほうのだがしやチロル堂」

 「キャバレー白鳥」は午後2時半~8時半までの夜型営業のデイサービス施設で、カラオケや麻雀をしながらお酒も楽しめるところです。自分が将来行きたいのは、どのようなところか、と考えた時に、「朝来て、リハビリをしたり、お風呂に入ったりという従来型のサービスは、しっくりこないところがあった。」と思った理事長が、キャバレーの元店舗を有効活用し運営しています。

 昔楽しんだ懐かしい場所、誰かと一緒に食べたり飲んだりできる夕食、ひきこもりがちな独居高齢者が来たいと喜んで通うところになっているそうです。

 「まほうのだがしやチロル堂」は子どもたちに人気のお店です。コロナ禍で子ども食堂が開けなくなり、居場所がなくなった子どもたちを、何とかして支える居場所を作りたいと考え地元の人たちが作ったお店です。「魔法の通貨」とも言われる「チロル」で100円分の駄菓子が買え、カレーやポテトフライ、ジュースなども1チロルです。チロルは子どもだけが1日1回できるガチャガチャのカプセルに入っていて、普通は1枚ですが、運が良いと2枚や3枚のこともあります。入る時にワクワクして友達と楽しく食べたり遊んだりできるお店です。

 利用者がどうしたら楽しみ、ここにまた来たいと思うようになってくれるかを一生懸命考えた人たちの様々な思いや工夫が、しっかり相手に届き、お互いの幸せになっている素敵な居場所です。

 清水園で今年度初めて行う庭園セミナーでの「茶室鑑賞ワークショップ」
どんなお話が出るのか、初めての試みなのでわかりませんが、ワークショップのお話が出た時に、上記の二つの施設を思い浮かべました。   

 ここにまた来たい、と多くの皆さまに思っていただける居場所となれるように、皆さまからのご意見をいただけると大変ありがたいです。もしお時間がありましたら、参加していただけると嬉しいです。第1回は4月23日(土)の9時30分から11時30分です。

清水園/ひろ

# by hoppo_bunka | 2022-04-13 17:19 | 清水園 | Comments(0)

清水園 小さな桜の木が満開

清水園内の夕佳亭そばにある桜が満開になっていました。

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とても小さな木が2本。 庭園に春らしさを添えてくれています。

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加治川の桜も蕾がだいぶ膨らんできたようです。
開花まで待ち遠しいですね🌸

おでかけの際は、ぜひ清水園へもお立ち寄りください。
お待ちしております。


清水園/さっちゃん

# by hoppo_bunka | 2022-04-09 11:25 | 清水園 | Comments(0)

思いを埋める

 行きたい場所はどこ?
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 「石ばしる垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも」
志貴皇子の歌のように春がやってきました。

 「パタゴニア」~嵐の大地~
そんな、言葉の上でしか知らなかった場所が、急に人生の中に降りてきました。

 きっかけは、昨日義母と行った「人形浄瑠璃と岩の原ワインの夕べ」で、同じテーブルに居合わせた女性のお話です。偶然居合わせた5名のうち2人の方が山歩きが好きで、これから絶対に行ってみたいところ、今まで行って本当に良かったところ、という話の中で、「パタゴニア」の名前を挙げたのでした。

 南米の風が強く吹く、氷河が見られるという、その場所に、偶然にも、行きたいとずっと願っている人と、行って本当に良かったと思っている人が、佐渡の文弥人形を継承する人形浄瑠璃「猿八座」のサントリー地域文化賞受賞記念公演で居合わせるなんて。
 トレッキングに興味が無かった私でも、そこに導かれるような気がして、家に帰ってから調べる気持ちになりました。 

 お一人の方は航空券まで取ったのに、新型コロナウィルスのせいで行けなかったこと、2年前に夫を亡くしてからは、毎日山歩きに出かけていることなどをお話されました。そして、山には、これが見たかった、と思えるものに出会えるから、行くのをやめられないとおっしゃっていました。一人だから、自由気ままだし、とも。

 人形浄瑠璃は佐渡出身の義母が、きっと懐かしく思うだろうと思い、申し込みました。ここ2年程、義母といろいろな所に行くようになりました。本当は実家の母も連れて3人で出かけたいのですが、腰が悪く乗り物にずっと乗っていることが難しいです。感染拡大も気にして近い所へも行きたがらず、いつも2人旅になります。
 義母も母も、もう、自分の行きたい所や見たいものがあっても、一人で行くことはできなくなりました。たとえ心の中で思う場所があっったとしても、口に出すことは遠慮してしません。だから、興味がありそうなツアーや催事があると、誘って出かけます。あと何回できるか、動けなくなるまでは、二人とも連れて出歩きたいです。
 
 夫も若い時からずっと北海道に行きたいと言っていながら、未だに一緒に行くことができずにいます。願いをかなえてあげたいけれど、夫もまとまった休みを取ることがなかなかできない仕事なので、かないません。夫を亡くされた方のお話を伺ったら、ますます夢をかなえてあげたくなりました。

 昨夜久しぶりに亡くなった祖母が夢の中に出てきました。特別養護老人ホームの玄関の前で車椅子に乗って、「じゃぁ帰りましょうかね。」といつものように口にします。それを聞いて、「また来週会いに来るからね。元気でいてね。」とぐっとこらえて祖母を置いてドアの外に出ます。思い出したら、泣いてしまいました。

 帰りたかったんだ。家に。でも帰れない。自分でどうすることもできないし。私たちもどうしてやることもできなかった。
行きたいところは、我が家でした。
 できないけれど、それでも口に出してしまう「帰りましょうかね。」という言葉。それを知りつつ叶えてあげられず死なせてしまったことへの抑えきれない思いは、時折ふっと襲って来て、心をいっぱいにします。そんな時、人には心を埋める場所や時間が必要なのだと思います。

 書院のお雛様を見て、お庭を歩きます。カモの邪魔をしないように池に近づき、少しずつ少しずついつもの自分を取り戻していきます。
昨日お会いした方も、きっと山を歩きながら、思いを鎮め、今の生活を少しずつ、少しずつ受け入れていかれるのでしょう。思いを埋める場所は、ふと気がつくと、明るい喜びに満ちている。
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 残されていく方が、いつもさみしい。でも自分の人生を行かなきゃね。カモさんもそう言っています。
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 猿八座の演目は、「信太妻 葛の葉子別れの段」でした。

清水園/ひろ

 

 

 

# by hoppo_bunka | 2022-03-25 17:10 | 清水園 | Comments(0)